患者さんひとりひとりに寄り添うチーム医療を実践し、最善を尽くします
渋川医療センター血液内科の特徴は?
当院血液内科の特徴を大きく3つお話しします。
まず血液疾患の中でも特に、「多発性骨髄腫」と「悪性リンパ腫」という2つの血液がんの診療を得意としている点です。これは群馬県内の血液グループの連携があってこそできることで、血液専門病院の数が限られる状況のなか互いの得意分野を生かしたり、足りない部分を補ったりしています。
次に、地方の市中病院でありながら治験を多く行っており、治験以外の臨床研究についても積極的に参加している点です。患者さんに最善の診療を提供するとともに、医療の進歩にも貢献していきたいという思いがあります。
最後に、多職種連携によるチーム医療体制です。長年にわたり当たり前のように行ってきておりますので、スタッフが入れ替わっても持続でき、いつでも相互に相談しやすい体制をつくっています。
得意分野の多発性骨髄腫について、実際の診療はどのように行っていますか?
多発性骨髄腫は血液検査や尿検査、骨髄穿刺と画像診断を合わせて診断し、リスク因子を把握したうえで治療方針を考えます。骨病変によって痛みが強く出るなど日常生活が制限される場合もあり、整形外科や放射線治療科、リハビリや緩和ケアチームも関わります。治療のなかでは自分の造血幹細胞を保存して、大量化学療法のあとに戻す「自家末梢血幹細胞移植」も行うことがあります。また当院では特に骨髄腫の治験を多く行っているため、通常の保険診療で行われる治療に加えて、条件があえば治験という選択肢がある場合もあります。
骨髄腫の治療薬の進歩は近年めざましく、この数年で標準治療は大きく変化し、治療選択肢も高度かつ複雑になっています。さらに高齢化が進み、患者さんの状態に適した治療を選ぶことは簡単ではありません。ガイドラインだけでなく最新の知見を取り入れ、カンファレンスで決まった方針を患者さん・家族にお話しして、できる限りSDM(shared decision making:共同意思決定)により最終的な決定ができるようにこころがけています。
続いて、悪性リンパ腫の実際の診療はどのように行っていますか?
悪性リンパ腫ではリンパ節など病変のある部位の生検を行って診断する必要があるため、外科・耳鼻科・放射線診断科など他科との連携が重要です。進行が非常に速い場合もしばしばありますが、当院ではスムーズな連携により来院から診断までを早期に行えることも強みだと思います。治療方針の決定には組織型(リンパ腫のタイプ)が最も重要であるため、毎週病理診断科とカンファレンスを行い、難しい症例は血液病理専門家へのコンサルトを行って診断しています。さらに、さまざまなリスク因子、患者さんの状態を考慮して治療方針を決めていきます。
骨髄腫と同様、リンパ腫もこの数年で治療が大きく進歩しており、多くの組織型で標準治療が変わってきており、最新の知見を常に取り入れる必要があります。骨髄腫は臨床研究部長の入内島先生、リンパ腫は私が中心となって、科内のカンファレンスで全症例の方針を相談しています。
治験を多く行っているとのことですが、詳しく教えてください。
当院では旧西群馬病院の時代から多発性骨髄腫の患者さんの治療を多く行ってきたことから、近年製薬企業の依頼による治験が多く行われています。治験を行うことは決して簡単ではありません。専門的な業務を行う薬剤師・看護師・事務が所属する「治験管理室」という治験・臨床試験に特化した部門が中心となり、倫理面・安全面に最大限配慮した体制で行っています。治験を行うには医師と治験管理室、企業の依頼者側が顕密に連携することが重要で、これもひとつの「チーム医療」です。医師にとっても多大な労力になりますが、治験を行うことは目の前の患者さんに治療選択肢を増やすことだけでなく、この先の医療の進歩に貢献できるという大きなメリットがあります。わたしたちが行ってきた治験の治療薬がその後に次々に保険診療で行えるようになっていっており、すべてが成功するわけではありませんが、少しでも患者さんの未来を明るくしたいという思いで取り組んでいます。今後できれば、悪性リンパ腫の治験も増やすことができればと思っています。
多発性骨髄腫・悪性リンパ腫の最新治療はどのようなものがありますか?
血液がんの治療は従来「殺細胞性抗がん薬」と言われる、わかりやすく言うと髪の毛が抜けたり吐き気が強く出たりする薬剤をたくさん組み合わせて行う治療が主体でしたが、最近はこれらの役割が減少し、新しい治療が次々と出てきています。特に多発性骨髄腫では約20年程度の間に数多くの新薬が登場しました。ボルテゾミブなどの「プロテアソーム阻害薬」、レナリドミドなどの「免疫調節薬」、ダラツムマブなどの「抗CD38抗体薬」という三本柱が中心となり、これらの併用療法により治療成績が格段によくなりました。悪性リンパ腫では抗CD20抗体リツキシマブの登場から20年以上経過して「抗体薬物複合体」ポラツズマブベドチンによって最大病型「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」の標準治療が変わり、ほかにも「BTK阻害薬」や「BCL-2阻害薬」などの分子標的薬により低悪性度B細胞リンパ腫の治療も大きく進歩しています。
また最近の大きなトピックスとしては細胞免疫療法の進歩があります。特に「CAR-T細胞療法」という治療が画期的な成果をもたらしています。自分のリンパ球をいったん取り出して、がん細胞を攻撃できる細胞に改造してから戻す治療です。もうひとつは「二重特異性抗体」で、がん細胞の標的とTリンパ球の両方に抗体薬がくっついて、Tリンパ球にがん細胞を攻撃させる治療です。これらは従来の治療が効かなかった患者さんにも高い治療効果を示します。「CAR-T細胞療法」は当院では行えないため群馬大学病院や都内施設に紹介していますが、「二重特異性抗体」は当院でも多くの患者さんに行っています。
そのほかの血液疾患の治療はどのように行っていますか?群馬県内での連携も含めて教えてください。
当院は北毛地域で唯一の血液疾患を専門的に診療できる病院ですので、骨髄腫・リンパ腫だけでなくほぼすべての血液疾患に対応しています。急性・慢性の白血病や骨髄異形成症候群、貧血や血小板減少、凝固の異常など多岐にわたりますが、ほとんどは当院で診療可能です。ただし、当院では同種造血幹細胞移植を行うことができないこと、より得意分野を生かすということから若年の急性白血病については最初から群馬大学病院や済生会前橋病院へ紹介させていただいています。そのほか、凝固の異常で専門的治療が必要な場合や、集中治療や血液透析が必要となる患者さん、当院にはない診療科の助けが必要な場合も他院へ転院、紹介させていただく場合があります。患者さんに最善を尽くすためのことですので、ご理解いただきたく思います。
日常診療におけるチーム医療・多職種連携について、どのようなことを心掛けていますか?
治療の高度化・専門化・複雑化、そして高齢化や地域の特性からくる社会的な問題に対応するのに、ますます多職種の関わりが重要になっています。当科では毎週「多職種カンファレンス」を行っており、医師・看護師(病棟・外来化学療法室・入退院センター)・薬剤師・MSW・リハビリ・管理栄養士・検査技師らが集まって問題点についての議論や情報共有を行っています。毎週顔を合わせることで仲間としての意識が高まり、日頃から気軽に相談しやすい環境の土台になると考えています。
「チーム医療」を行う上で、私は個々を尊重することがとても大切だと考えています。診療スタッフ同士はそれぞれ職種による、あるいは個人のいろんな事情があり、知識も考え方もみな異なります。日々の業務に追われていると決して簡単なことではありませんが、お互いが尊重しあって個の力を高め合い、それを繋ぎ合わせたチーム医療を患者さんに届けられると良いですね。患者さんひとりひとりを丁寧に診て、患者さんから私たちも学び、それをチームで共有し、そして明日からの診療をより良いものにしていく。そういった良い循環をつくり、髙橋院長先生が掲げられた「Advanced medicine, human touch.」を体現するべく血液内科も進化し続けたいと思っています。

