渋川医療センターの消化器外科の特色は腹腔鏡下手術です。日本内視鏡外科学会は、「内視鏡下手術を安全かつ適切に施行する技術を有し、かつ指導するに足る技量を有していることを認定」する目的で、実際の腹腔鏡下手術のビデオ審査等により技術認定を行っています。消化器・一般外科分野での技術認定取得医は群馬県内に38名いますが、当院では2名の技術認定取得医が腹腔鏡下手術に従事しており、開院以来、安全性と根治性が担保された腹腔鏡下手術を提供しております。2021年度に行った手術で、悪性腫瘍に対する手術で多かったのは、大腸癌手術の57例と、胃癌手術の22例で、大腸癌手術の93%と胃癌手術の100%が腹腔鏡下に行われました。胃癌および大腸癌に対する手術での手術死亡あるいは在院死亡は1例もありませんでした。胃癌、大腸癌に対しては、根治性と安全性を十分に担保しつつ、進行癌を含めた多くの症例に腹腔鏡下手術を提供しております。良性疾患に対する手術で多かったのは、鼠径・腹壁ヘルニア手術の51例、 胆嚢摘出術の21例、および虫垂切除術の14例で、鼠径・腹壁ヘルニア手術の80%、胆嚢摘出術の100%、虫垂切除術の100%が腹腔鏡下に行われました。また、根治切除のできない進行癌に対するバイパス手術や絞扼性を含むイレウス・腸閉塞に対する手術など、開腹創が無いあるいは小さい方が望ましい手術に対しても、当科の高い腹腔鏡下手術技術を積極的に用いております。
腹腔鏡手術には、術野全体を同時に見られない、触覚に乏しいといった欠点があると言われていましたが、これらは方法論の開発や経験によって、もはや問題とならないものとなっています。一方で、現在のハイビジョンカメラが映し出す拡大視された高精細な映像は、例えば、これまでの開腹手術ではできない細緻で正確なリンパ節郭清を可能とします(図1)。今日の腹腔鏡下手術の普及には、手術方法の開発と共に、手術器具の発展が寄与してきたと考えられます。当院では、開院時よりオリンパス社製3Dビデオスコープシステムを導入し、高精細かつ立体感のある映像を基に(図2)、4部屋ある広い手術室と相まって(図3)、群馬県内でもトップクラスの腹腔鏡下手術環境を提供しています(図4)。全手術症例の88%(2021年度)を腹腔鏡下に行っている当科では、これまで、1台しかない3Dビデオスコープシステムが手術施行の律速段階となり、特に良性疾患において長い手術待ち期間を発生させ、患者様に御迷惑をおかけ致しました。これに対して、2022年夏に最新のオリンパス社製3Dビデオスコープシステムを1台追加導入し、今後は2台の3Dビデオスコープシステムを用いて、遅延のない手術を提供して参ります。
直腸は膀胱(子宮)、更にはより尾側の前立腺(膣)の背側に接しています。また、直腸の左右側には排尿機能や性機能に関わる骨盤神経叢が接しています。開腹手術において直腸周囲はしばしば観察困難で、直腸癌手術には出血や神経損傷による排尿・性機能障害がつきものでした。腹腔鏡下に手術を行える時代となり、先端の曲がるフレキシブルスコープを使用することにより、直腸と骨盤神経叢や前立腺・膣との間をどこまでも詳細に観察しつつ手術することが可能となりました。これにより出血量は極少量となり、排尿障害もほぼ経験することが無くなりました。一方で、直腸周囲の手術が肛門管に近づくと、先端の曲がるカメラでの観察は可能ですが、直線状の手術器械は見えている部位に到達できないという事態が発生します(図5)。また、直腸を離断する自動縫合器も、挿入する方向が規定される上、先端も一方向にしか曲がらないため、直腸の離断に関しては自動縫合器を自由な方向から挿入できる開腹手術より難しいという事態も発生します。この腹腔鏡特有の欠点を補うために、当院では経肛門的直腸切除(TaTME)をしばしば併用しています。当院での下部直腸癌に対する腹腔鏡下手術では、まず、これまで通り腹腔鏡下の詳細な視野を利用して、肛門管付近まで直腸周囲を剥離します。続いて、肛門管内に専用の筒状の道具を挿入して経肛門アプローチに切り替え(図6a. b.)、癌からの距離を正確に測って直腸を切離する場所を決めた後(図6c.)、切離予定線と癌の間の直腸内腔に巾着縫合をかけ、癌がある側の直腸を閉鎖します(図6d.)。その後、直腸を内側から全周に切開し直腸の切離を終了します(図6e. f.)。直腸の肛門側の断端に巾着縫合をかけ(図6e. f.)、あとは腹腔側から腹腔鏡で見て、通常の腹腔鏡下手術と同様の手技で器械で腸管吻合を行います。TaTMEを導入することで、癌から適切な距離をおいて直腸を切離することが可能となり、良好な成績を得ております。
役職 | 内視鏡外科センター長 消化器外科部長 |
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名前 | 吉成 大介 (よしなり だいすけ) |
卒年 | 群馬大学 平成6年卒 |
専門分野 | 消化器外科 |
資格 |
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役職 | 消化器外科医長 |
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名前 | 沼賀 有紀 (ぬまが ゆき) |
卒年 | 群馬大学 平成14年卒 |
専門分野 | 消化器外科 |
資格 |
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役職 | 消化器外科医長 |
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名前 | 髙橋 研吾 (たかはし けんご) |
卒年 | 群馬大学 平成19年卒 |
専門分野 | 消化器外科 |
資格 |
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役職 | 消化器外科医師 |
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名前 | 市岡 健 (いちおか けん) |
卒年 | 群馬大学 平成30年卒 |
専門分野 | 消化器外科 |
資格 |
役職 | 消化器外科医師 |
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名前 | 鴨下 崇史 (かもした たかふみ) |
卒年 | 群馬大学 令和3年卒 |
専門分野 | 消化器外科 |
資格 |
役職 | 名誉院長 |
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名前 | 蒔田 富士雄 (まきた ふじお) |
卒年 | 群馬大学 昭和58年卒 |
専門分野 | 消化器外科 |
資格 |
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